森の奥に咲く「黒いランの女王」たち
自然はラン科植物に類まれな美しさを惜しみなく与え、その花の多様さは古代から現代に至るまで人々を驚かせてきた。 実際、ラン科(Orchidaceae)は、見事な花房の気品、鮮やかな色彩と芳醇な香り、そして誘いかけるようにしなやかな茎の姿から「美の女王」にたとえられる。自然の清らかな美しさを楽しみたいという思いから、ランは常にあらゆる階層の人々を魅了してきた。
>>> ランの不思議な世界
植物学者がベトナムで確認したランは1000種を超え、その多様性は誰もが関心を持ち、守っていくべきものだ。数百に及ぶ属の中で、どの種もそれぞれ鮮やかな色彩の誇り高い美しさを持つ。しかしベトナムには、漆黒や黒紫色の花を咲かせる非常に珍しいランもいくつか存在する。
1. バルボフィラム・ニグレスケンス(Bulbophyllum nigrescens)

バルボフィラム・ニグレスケンス(Bulbophyllum nigrescens) – (写真:Nguyễn Thị Liên Thương)
花弁が非常に小さいこのランは、マクロレンズを通して初めて唇弁や花の毛を見ることができる。通常は標高1500m以上に生え、葉は帯状の長楕円形で先端は鈍く、基部は細まって短い柄となる。花序は細く、長さ30~40mmで白い粉に覆われ、先端部に花が規則正しく並んで下向きに咲く。花は濃い黒色で、萼片はほぼ同形で細かい毛がある。花弁はさらに毛が多い。舌状の唇弁は上向きに反り、縁に毛が生えており、まるで自然からの贈り物の傑作のようだ。
2. バルボフィラム・スパディキフロルム(Bulbophyllum spadiciflorum)

バルボフィラム・スパディキフロルム(Bulbophyllum spadiciflorum) – (写真:Nguyễn Thị Liên Thương)
穂状の花序は偽球茎の基部から伸び、太く膨らんだ花茎は長さ50cmにも達し、紫色の筋が入った黄緑色の小さな花を多数つける。側萼片は幅広く反り返り、舌状の唇弁は黒紫色をしている。5月に咲くこのランは、通常、一年中霧に包まれた標高2000m近くの樹幹に着生する。ランの研究者でなければ、野生の中で見分けるのは難しい。
3. スニピア・ニグリカンス(Sunipia nigricans)

スニピア・ニグリカンス(Sunipia nigricans) – (写真:Nguyễn Thị Liên Thương)
毎年3~4月ごろ、強い悪臭を放つこの黒紫色の花が、ベトナム北西部ライチャウ(Lai Châu)省の旧フォントー(Phong Thổ)県一帯で咲き誇る。葉は細長い長楕円形で長さ4~10cm、幅1cm、先端は尖り、基部は細まって長さ1cmの柄となる。花序はかなり長く、唇弁も含めて黒紫色だ。このランは2007年12月にラン研究者によって発見されたばかりの種で、ベトナムの野生では非常に希少である。
4. トリコトシア・ダラテンシス(Trichotosia dalatensis)

トリコトシア・ダラテンシス(Trichotosia dalatensis) – (写真:Nguyễn Thị Liên Thương)
小型の着生ランで、茎は長く、基部に根があり直立する。ベトナム中部高原のラムドン(Lâm Đồng)省でのみ分布が確認されている狭域固有種だ。葉は互生し、細く厚く、長さ1cmで灰色の毛に覆われている。花序は茎の先端につき、花の外側は毛に覆われ、深く暗い黒色をしている。唇弁には2つの濃色の斑点と褐色の筋があり、縁は波打つ。固有種で花が非常に小さいため、ランの研究者にとってもこの花の美しさを鑑賞するのは容易ではない。
5. バルボフィラム・レムニスカトイデス(Bulbophyllum lemniscatoides)

バルボフィラム・レムニスカトイデス(Bulbophyllum lemniscatoides) – (写真:Nguyễn Thị Liên Thương)
造化の傑作と呼ぶにふさわしいこのランは、一見するとアラブの若い女性がかぶる、色とりどりの房飾りのついた頭巾のようだ。小さな花は密集してつき、黒紫色で毛があり、細長く、3方向に開く。唇弁は黒みがかった赤紫色で、反り返っている。芳醇な香りも放ち、ベトナムの自然からの貴重な贈り物として鑑賞する価値がある。
6. ルイシア・アンテニフェラ(Luisia antennifera)

ルイシア・アンテニフェラ(Luisia antennifera) – (写真:Nguyễn Thị Liên Thương)
ほぼ黒色に変わる唇弁はクモの背中のように見え、花は茎に沿ってつく。このランは茎も葉も円柱形だ。葉は互いに離れてつき、先端は一様に尖り、長さ10cm以上で、茎には節がある。細長い花弁は外側に反り、クモの脚のように見える。森の「黒い女王」の一つの清らかな美しさを、ぜひ眺めてみたい。
7. バルボフィラム・セクンドゥム(Bulbophyllum secundum)

バルボフィラム・セクンドゥム(Bulbophyllum secundum) – (写真:Nguyễn Thị Liên Thương)
花房が小さすぎて肉眼では鑑賞しにくいため、他のランのように華やかに咲き誇ることはない。バルボフィラム・セクンドゥムは着生ランで、根茎は柔らかい。偽球茎は扁平で滑らか、先端に葉を1枚つける。葉は帯状で、基部は細まって短い柄となる。花序は細長く、葉より高く伸びる。花は小さく多数つき、一方向に並ぶ。花色は赤褐色から黒紫色で、花弁には毛がある。舌状の唇弁は黒色で稜に毛があり、開花期間が非常に短いため、このランが咲いて散るまでを見届けるには忍耐が試される。

