ベトナムの台風はなぜ中部に上陸しやすいのか
ベトナムには「おじいさんは見逃しても、おばあさんは見逃さない/旧暦10月23日に洪水を起こす」という古いことわざがある。ベトナム北中部のタインホア(Thanh Hóa)省から南の各省では、毎年7月初めから10月にかけて洪水の季節が訪れることを戒め、警告するものだ。では、なぜいつも中部なのか。大型の台風をもたらす原因は何なのか。その理由を探ってみよう。
ベトナム中部の台風に関する専門的な調査によると、自然的要因と人為的要因の双方が重なり、細長い中部地方は、史上類を見ない大型台風の直撃を受ける中心地となっている。
大型台風は地理的要因に由来する
台風が発生するには、次の3つの条件がそろう必要がある。熱、湿気、そして渦を生み出す力学的な原動力である。
台風や熱帯低気圧が1年のうちで最も活発になるのは夏と秋である。北半球では6月から11月、南半球では12月から翌年3月にかけてで、この時期に台風が最も多く発生する。台風の発生と発達に最も有利な条件がすべてそろうからだ。すなわち、海面水温が高いこと(少なくとも26oC以上)、熱帯の大気が対流の発達に適していること、そして大規模な渦運動がかなり活発に起こることである。
台風が熱帯で発生するのは、この自然現象が少なくとも水深50mまで26度以上という非常に暖かい海水を必要とするからだ。台風は通常、赤道付近で発生して地球の2つの極の方向へ進み、遠ざかるほど速度を増す。そのため赤道に近い地域は台風の影響をあまり受けない。
本質的に、台風は海洋の「排熱」の手段である。ほとんどの台風は高気圧の縁に沿って進み、低気圧の領域に引き寄せられる。ベトナムでは、海面が最も多くのエネルギーを蓄える月(7、8、9月)に気圧の谷が中部を横切るように位置することが多く、台風もその経路をたどりやすい。

台風の衛星画像。
言い換えれば、ベトナム中部は南西モンスーンにさらされるため、気候が厳しい地域である。この風は(インド洋を通過するため)多くの湿気を含み、雨をもたらしやすい。このモンスーンの影響で、東海(Biển Đông)で発生した台風は北へ押し上げられる。後の月になるほど風が弱まるため、台風は次第に中部へと進路を移す傾向がある。
毎年、海上の台風と北東モンスーンが中部に大雨をもたらす。さらに、エルニーニョやラニーニャといった世界規模の気候変動も、台風や大雨をいっそう激しくしている。

台風シーズンは通常7月から11月まで続き、年平均5~8個の台風が来る。
台風シーズンは通常7月から11月まで続き、年平均5~8個の台風が来る。2006年から2017年にかけて、中部は7つの大型台風、多数の熱帯低気圧、数十回の北東モンスーンの影響を受けた。これらの台風や熱帯低気圧は、フィリピン東方の西太平洋上や東海(Biển Đông)上で発生することが多く、3~4日かけて移動した後にベトナムの沿岸に到達する。
上流域と平野部の暴風雨が広範囲の洪水を引き起こす
南部や北部と比べると、中部の経済はあまり発展していない。中部の人々は「7月には水が岸に跳ね上がる」という光景に慣れている。「天が毎年洪水を与える」からだ。
中部の海岸線は1200 kmに及び、タインホア省から南中部のビントゥアン(Bình Thuận)省までの各省を含む。チュオンソン(Trường Sơn)山脈(アンナン山脈)が海岸に沿って走っているため、中部の平野は非常に狭い。この地域には、クアンビン(Quảng Bình)省のザイン(Gianh)川、クアンチ(Quảng Trị)省のタックハン(Thạch Hãn)川、フエ・トゥアティエン(Huế-Thừa Thiên)のフオン(Hương、香)川、クアンナム(Quảng Nam)省のトゥボン(Thu Bồn)川、クアンガイ(Quảng Ngãi)省のチャクック(Trà Khúc)川など、大規模な河川や水路が網の目のように広がっている。
河口は土砂で埋まりやすく、平野部の洪水の排水を妨げている。
河川や渓流は多いが、そのほとんどは短く勾配が急である。流域は主に丘陵や山地であるため、雨水は非常に速く流れ下る。また河口は土砂で埋まりやすく、平野部の洪水の排水を妨げている。
さらに洪水は家屋、農作物、橋や水路、道路に甚大な被害をもたらし、もともと苦しい中部地方の暮らしをいっそう困難にしている。台風と洪水という自然災害の悪循環に陥っているため、この地域の経済発展は多くの不利を抱えている。
では、なぜ洪水は甚大な被害をもたらすのか
各レベルの行政機関や住民が台風・洪水被害の予防、対応、復旧に積極的に取り組んでいるにもかかわらず、その爪痕は依然として非常に深刻である。第一の原因は、大雨と洪水が広範囲で相次いで発生し、何日も続くことである。
上流域と平野部の暴風雨という主な原因に加え、よく挙げられる理由として森林破壊、砂利採取、そして堤防・ダムの仕組みがある。

台風と洪水は住民の生活に深刻な被害をもたらす。
米国をはじめ世界各地での研究や調査により、洪水の最大の原因は短時間に大量の雨が降ることだと証明されている。一方、森林破壊は中部のような狭い流域での洪水発生に直接影響しうる。樹木には水を蓄え、土砂崩れを減らす働きがあるからだ。森林が伐採されると、むき出しになった土地から水とともに土砂が流され、下流域の水位が上昇する。
河川での無秩序な砂利採取も洪水を悪化させている。これにより多くの区間で川岸が深刻に崩落している。川岸の崩落や河口の埋没は排水を妨げ、洪水をより大規模かつ長期化させる。
北部の紅河(ホン川)や南部のメコン川(クーロン川、Cửu Long)とは異なり、中部の河川には洪水を防ぐ堤防システムがない。また、平野部の洪水を軽減するための大規模な貯水池も上流域にない。そのため、川の両岸の人口密集地は、大型の暴風雨が来るたびに浸水の危険に直面している。
要するに、中部で台風・洪水が起こる主な原因は、東海で発生した台風と北東モンスーンが、台風の目の進路を形成するのに非常に適した中部の気象特性によって導かれることにある。そのため中部の各省は、自然からの深刻な災害を受ける被害者となっている。森林破壊などその他の要因は、洪水をさらに悪化させているにすぎない。
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