ベトナムに分布する猛毒のコブラ
ベトナムには4種のコブラが分布しており、いずれも命に関わる猛毒を持っている。
コブラ(学名:Naja)はコブラ科に属する毒ヘビの一属で、アジアとアフリカの各地に分布している。オーストラリア、南北アメリカ、ヨーロッパにはコブラは分布していないが、これらの大陸にもコブラ科に属するさまざまな毒ヘビが生息している。
コブラ類に共通する特徴は、長い胴体と大きな頭、そして首のフードを広げて外敵を威嚇する能力だ。一部の種は牙で噛みついて毒を注入するだけでなく、毒液を吹きかけて離れた相手を攻撃することもできる。
当初、コブラは20〜22種と推定されていたが、近年の研究でコブラ属には38種が含まれることが明らかになった。そのうち4種がベトナムに分布しており、いずれも命に関わる猛毒を持っている。
以下では、ベトナムに分布する猛毒のコブラを紹介する。
タイワンコブラ
タイワンコブラ(Naja atra、英名:チャイニーズコブラ)は、ベトナムでは「ホーマン・バイン」「ホーマン・トゥオン」などとも呼ばれる。主に中国南東部、海南島、台湾、ベトナム北部、ラオス北部の一部に分布している。
ベトナムでは北部の各省に多く、北中部の各省にまで広がり、中部のクアンビン(Quảng Bình)省やクアンチ(Quảng Trị)省でも散発的に見られる。一方、フエ市を中心とする旧トゥアティエン・フエ(Thừa Thiên-Huế)省以南では、タイワンコブラの記録はほとんどない。

北部の各省の住宅地で遭遇したタイワンコブラの写真を、多くのネットユーザーが共有している(写真:Facebookグループ「Nhận diện rắn và sơ cứu rắn cắn tại Việt Nam」〈ベトナムのヘビ識別とヘビ咬傷の応急処置〉)。
タイワンコブラはベトナム北部で最もよく見られる毒ヘビの一つだ。草地、森林、低木地、湿地、河川や渓流の岸辺、水田などの農地まで、さまざまな環境に生息している。
さらには住宅地や、都市部で草木が生い茂った空き地で見つかることもある。
タイワンコブラは中型の毒ヘビで、全長はおよそ1.2〜1.5m。まれに2mに達する個体もいる。日中も活動するが、狩りは主に夜間に行う。主な餌はヒキガエル、カエル、トカゲ、ネズミ、さらには他のヘビだ。幼蛇は主にカエル類を食べる。

タイワンコブラの首の後ろに見られるさまざまな模様(写真:HongKong SnakeID)。
成体のタイワンコブラは4月下旬から5月上旬に交尾し、6〜7月に産卵する。1回の産卵数は6〜20個。卵は50〜57日でふ化するため、幼蛇は7〜9月に姿を現す。この時期には住宅地でもタイワンコブラの幼蛇がよく見られる。
モノクルコブラ
モノクルコブラは、ベトナムでは「ラン・ホー・ダット」「ラン・ホー・フィー」などと呼ばれ、学名はNaja kaouthia。インド、バングラデシュから中国南西部の一部、ラオス、タイ、ベトナムなどにかけて分布している。
前述のタイワンコブラとは異なり、ベトナムのモノクルコブラは中部、中部高原(Tây Nguyên)、南部の各省にのみ分布している。

モノクルコブラは人の生活圏で見かけることもある。
モノクルコブラはマングローブ林、水田、湿地、草地、農地など、さまざまな環境に生息できる。都市部を含む人の生活圏でも見られるため、人と遭遇することがある。
モノクルコブラはタイワンコブラよりやや大きく、全長は通常1.3〜1.5mで、まれに2.3mに達することもある。体色もタイワンコブラより濃いことが多く、真っ黒な個体もいる。
危険を感じると、モノクルコブラは頭を高く持ち上げてフードを大きく広げる。フードの背面には片眼鏡(モノクル)のような円形の模様が見られる。餌はげっ歯類、魚、カエル、さらに一部の他のヘビなどだ。
モノクルコブラも毒液を吹きかけて敵を攻撃することがあるが、主に牙で噛みついて毒を注入する。

モノクルコブラは通常、タイワンコブラより体色が暗い(写真:ResearchGate)。
モノクルコブラの雌は毎年1〜3月に産卵し、1回の産卵数は16〜33個。抱卵期間は55〜73日ほどで、幼蛇は例年4〜6月に現れる。この時期はモノクルコブラに遭遇しやすい時期といえる。
ナジャ・フクシ(伏羲コブラ)
ナジャ・フクシ(Naja fuxi)は、当初はモノクルコブラの一部と見なされていた。しかし2022年、科学者が形態と遺伝子をより詳しく調べた結果、独立した種として認められ、学名Naja fuxiが与えられた。
この名前は、中国神話に登場する伏羲(ふっき)に由来するとされる。伏羲は人類の祖先の一人とされ、上半身が人、下半身が蛇の姿で描かれる。

ナジャ・フクシはかつてモノクルコブラの一部と見なされていたが、その後、別種と確認された(写真:ResearchGate)。
ナジャ・フクシは標高1,000〜1,400mの森林や、緩やかな斜面、林縁に生息することが多い。中国南西部、ミャンマー、ラオス、タイ、ベトナムに分布している。
ベトナムでは、主に北西部の山岳地帯で見られる。
ナジャ・フクシは中型で、体長は70〜140cm。体色は褐色か暗色のことが多く、幼蛇は成体より色が濃い傾向がある。
総じて、ナジャ・フクシとモノクルコブラを見分けるのは容易ではなく、専門的な知識が必要だ。
ナジャ・フクシは両生類、鳥類、げっ歯類、一部の他のヘビを食べる。時には人の生活圏に現れ、獲物を狩ったり、飼育されている家禽を襲ったりすることもある。
インドシナのドクハキコブラ
インドシナに分布するドクハキコブラの一種、ナジャ・シアメンシス(Naja siamensis)は、シャムコブラとも呼ばれ、ベトナムでは「ラン・ホー・メオ」の名で最もよく知られている。東南アジアに広く分布し、ベトナム、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマーで見られる。
ベトナムでは、主にメコンデルタ地方や南部のタイニン(Tây Ninh)、ドンナイ(Đồng Nai)、アンザン(An Giang)、ティエンザン(Tiền Giang)、ホーチミン市などに分布している。
ほかのコブラと比べて体色が明るく、体には白い斑点や縞が見られることが多い。全長は0.9〜1.2mで、最大1.6mに達する。

このヘビは最大2m先まで毒液を飛ばすことができる。
「ドクハキコブラ」の名の通り、毒牙で攻撃するだけでなく、毒液を吹きかけて離れた敵を攻撃することができる。その距離は最大2mに及ぶ。通常は、噛みつく前にまず毒液を吹きかけて相手を威嚇する。
人や動物の開いた傷口に毒液がかかると、噛まれた場合と同様の中毒症状が起こる。目に入ると焼けるような痛みや一時的な失明、さらには永久的な失明につながることもある。目に毒液を浴びた場合は、直ちに流水で目を洗い続けて毒を洗い流す必要がある。
生息環境は幅広く、低地、湿地、農地、ゴム林、果樹園などで見られる。そのため、ネズミを狩りに人の生活圏へ入り込み、人と鉢合わせすることがある。
餌は両生類、げっ歯類、鳥類、小型の肉食哺乳類などだ。
1回の産卵数は13〜20個で、卵は巣の温度に応じて48〜70日でふ化する。ふ化したばかりの幼蛇も成体と同等に危険な毒を持ち、一噛みで大人を死に至らしめるほどだ。
なぜキングコブラはベトナムのコブラのリストに入らないのか?
上のリストを読んで、ベトナムに分布するコブラがなぜ4種だけなのか、キングコブラはどうなのかと疑問に思った読者も多いだろう。
キングコブラ(学名:Ophiophagus hannah)は、ベトナムでは「ラン・ホー・マン・チュア(王様コブラ)」と呼ばれることが多いが、真のコブラであるコブラ属(Naja)には属さず、独立したキングコブラ属(Ophiophagus)に属する。
キングコブラと呼ばれるのは、同じように頭を高く持ち上げてフードを広げ、敵を威嚇できるからだ。ただし、そのフードは真のコブラより小さいのが普通だ。

キングコブラはフードを広げ、頭を高く持ち上げることができるが、真のコブラではない(写真:Wikipedia)。
キングコブラは形態や生態の面でもコブラと多くの違いがある。たとえば体がより大きく長い(キングコブラは世界で最も長い毒ヘビで、全長5mを超えることもある)。キングコブラは有毒・無毒を問わずヘビを捕食し、餌が乏しいときには同種の個体まで食べる。
キングコブラは生息域のヘビの個体数を抑える役割を担っており、地域のヘビが減った場合には自らの個体数も調整している。
コブラが家に入ってきたらどうすべきか
以上がベトナムに分布する4種のコブラだ。いずれもフードを広げ、頭を高く持ち上げることができ、そして何より命に関わる猛毒を持っている。
専門知識がなければ、コブラの種を見分けるのは簡単ではない。しかし、フードを広げて頭を持ち上げるヘビに出くわしたら、それはコブラだとすぐに分かるので、できる限り距離を取るようにしたい。

家に入ってきたコブラを捕まえようとしてはいけない。噛まれて重大な事故につながるおそれがある(写真:SIFASV)。
コブラが家に入ってきた場合は、落ち着いてヘビから安全な距離を保ち、スマートフォンやカメラでヘビの姿を撮影しよう。その画像をヘビの専門家や地元の救助隊に送り、助けを求めるとよい。
撮影したヘビの画像は、万一噛まれた場合にも非常に役立つ。医師が治療方針を立て、適切な抗毒素血清を選ぶ手がかりになるからだ。
救助隊やヘビの救助チームの到着を待つ間は、ヘビから常に目を離さず、視界から消えて家の物陰に隠れてしまわないようにする必要がある。
救助隊や爬虫類の専門家に連絡がつかない場合は、竿や長いほうきの柄などと、ヘビを入れる容器を用意する。竿やほうきの柄でヘビを追い込むか引っかけて容器に入れ、逃げ出さないようふたをしっかり閉める。
ヘビを殺すことは、人命に差し迫った危険があり、かつ安全に捕獲したり移したりできない場合に限った最後の手段と考えるべきだ。
注:キングコブラはベトナムで保護対象種に指定されており、コブラ類も規制対象の野生生物である。捕獲、売買、食用にすることは違法となる。
万一噛まれた場合は、被害者を落ち着かせ、心拍が速くなるような動きを避けさせる。毒の広がりを遅らせるため噛まれた部位を心臓より低く保ち、できるだけ早く医療機関へ搬送する。傷口を切開する、毒を吸い出す、薬草を貼るといった処置は、かえって症状を悪化させるおそれがある。
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