絶食してまで「よその子」を育てる魚、目的は雌へのアピール
オーストラリアの池や小川の水草の間に身を潜めているのが「マウスオールマイティ(Mouth almighty)」だ。大きく力強いあごを持ち、通りがかった獲物を一瞬で捕らえる特異な魚である。それだけではない。マウスオールマイティの雄は、その「万能の口」を何百匹もの稚魚の隠れ家としても使う。

大きな口と強力なあごを持つマウスオールマイティ。
魚が口の中で卵を保護する行動は「マウスブルーディング(口内保育)」と呼ばれ、マウスオールマイティでは雄がこれを行い、その頻度は週2~3回に及ぶ。他の口内保育魚と同様に、マウスオールマイティは口内保育のたびに多くの栄養を消耗する。そのため子育てには慎重になりそうなものだが、意外にも、学術誌「Biology Letters」に最近発表された研究によると、マウスオールマイティの父親は時に自分の子ではない稚魚まで育てているという。
研究の筆頭著者であるジャニーン・アベシア(Janine Abecia)氏は、オーストラリアのチャールズ・ダーウィン大学の博士課程に在籍し、マウスオールマイティとナマズの一種ネオアリウス・グラエフェイ(Neoarius graeffei)を研究している。両種ともオーストラリアの淡水に生息する口内保育魚だ。研究では、両種が卵を口に含んでいる間はまったく餌を食べないことも示された。
「口内保育中の個体の胃を調べたところ、空っぽでした」とアベシア氏は話す。
さらに、口いっぱいに稚魚を詰め込むと呼吸がしにくくなり、親魚の動きも鈍くなって、天敵から逃げにくくなる。こうした不利益を考えれば、進化の法則上、口内保育魚は自分の実の子だけを世話するはずだ。しかし、実際はそうではなかった。

マウスオールマイティの雄の口の中にいるのは、必ずしも自分の子とは限らない。
アベシア氏は、オーストラリア北部準州の河川でマウスオールマイティとネオアリウス・グラエフェイを採集した。遺伝的な比較のため、口に稚魚を含んでいない成魚も集めた。その上で、雄の口から卵または稚魚を約10個体ずつ取り出し、DNAを分析して親子関係を調べた。
その結果、ネオアリウス・グラエフェイでは9匹の父親すべてが自分の子を育てており、それぞれの稚魚は同じ1匹の母親から生まれていた。ところが、マウスオールマイティの口の中は少し奇妙だった。アベシア氏によると、野外から持ち帰った15の卵群(ブルード)のうち、4つは由来が一様ではなかった。
具体的には、15群のうち2群には複数の母親がおり、雄がすでに口の中に卵を抱えている状態で別の雌に求愛したことを示している。1群には複数の父親がおり、父親が卵を口に含む前に、別の雄がこっそり一部の卵を受精させた可能性がある。さらに別の1群では、稚魚と、それを育てている魚との間にまったく血縁関係がなかった。
これまでにも、一部の口内保育魚が他の個体の子を抱えていることは知られていた。あるテンジクダイ類(cardinalfish)では、親魚の約8%が血縁のない子を育てていた。また、シルバーアロワナの研究では、14匹の親魚のうち2匹が「よその子」を口に含んでいた。
明らかに、血縁のない子を育てることは口内保育魚にとって不利益の方が大きい。では、なぜ魚たちはそれを避けようとしないのだろうか。
一つの可能性は、口いっぱいの稚魚が雄をより魅力的に見せるというものだ。

マウスオールマイティの雄は、たとえ実の子でなくても、稚魚でいっぱいの口で雌に好印象を与えようとする。
実際、アベシア氏は次のように説明する。「一部の雌は、子の世話をしている雄に引きつけられます。より頼りがいがあるように見えるからです。そのため、雄が『よその子を育てる』労力は、後で報われる可能性があります。多くの雌が喜んで雄の口を卵で満たし、雄はより多くの配偶相手を得られます。これは子孫を残す上でも有利です」
しかし、ブルックリン・カレッジの進化生物学者トニー・ウィルソン(Tony Wilson)氏によると、これは小規模な研究に過ぎず、何らかの結論を出すのはまだ早いという。より正確な結論を導くには、さらなる研究とより多くのデータが必要だ。
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